アニーの指輪

作詞:志倉千代丸 作曲/編曲:林達志

『月蝕のヴァニタス』以来4年ぶりの新曲。
『鋼の鎧纏う、三百の大司祭』以来のシングル、そして志倉千代丸さんの作詞。

志倉さんがファンタズムで『STEINS;GATE』のED曲を作詞するのは2度目だが、
『STEINS;GATE』をテーマにした曲では他に10曲近く作詞している。
そういう意味ではファンタズムという個性が付いている分、作りやすかったかもしれない。
ファンタズムの『STEINS;GATE』ED曲はこれで4曲目だ。
なので当然、使われる言葉はどれも似てくる。特に「時」「蝶(バタフライ効果)」という単語はとても分かりやすい。
志倉さんの場合そこに『グラジオール・サーガ』つまり聖書の要素を多く盛り込んでいる。
(ただし『刻司ル十二ノ盟約』はアニメなので分かりやすさ・覚えやすさ優先となっているはず)
『STEINS;GATE』自体にも「神を冒涜する」という表現は登場するが、
これはずはり“イエス・キリスト”ということではなく、もっと曖昧で広義な概念だと思う。
凶真が語る言葉は北欧神話であって聖書ではないし。

「時」というテーマは、志倉さんにとって単なるゲーム作品を表す言葉に留まらない。
彼自身が、長い間ずっと思いを馳せているテーマだ。
「時」について語ることには特別強い想いを込めているだろう。
だからこそ『STEINS;GATE』という作品が生まれたとも言えるのだが。

歌詞には『STEINS;GATE』を彷彿とさせる言葉が散りばめられている。
はいわずもがな。
世界線移動による前の世界線の記憶の忘却
幾重にも分かれている世界線構造。鈴羽がそれを説明する場面のイベントCGが思い出される。
世界線移動によって未来を変える再編
その先を誰も知らないシュタインズ・ゲート世界線。
過去の岡部と宇宙を騙すという、シュタインズ・ゲート世界線へ至る手段。
あらゆる方法でまゆり、あるいは紅莉栖の死の陰をくぐろうとする岡部。
未来を変えられない無慈悲な収束
第三次世界大戦という未来が待っているβ世界線では絶え間ない叫びが続くだろう。
が創った宇宙の法則に背いて世界線を跳べ

それらに紛れた中で目を引いたのは大司祭契約の血
この2つはそれぞれ別の楽曲を連想させる。
『鋼の鎧纏う、三百の大司祭』、『ROBOTICS;NOTES』ED曲。
『罪過に契約の血を』、『CHAOS;HEAD』挿入歌。
科学アドベンチャーシリーズの別作品を思わせることに、集大成めいたものを感じた。

タイトルを付けるのは作詞者である場合が多いらしい。
今作は志倉さんなので、きっと捻りに捻りを重ねた独特の視点によるネーミングだろうと推測した。
具体的には「“シュレディンガーの猫”のような、研究者の名前を引用した用語なのではないか」と考えたのだ。
そこで、 アニー 量子力学で検索。
すると、「量子アニーリング」という単語が表れた。
「アニー」で検索したら「リング=指輪」がセットになってやってきた、というおもしろい結果だった。
量子アニーリングは quantum annealing であり、 anneal に ing がついた形なのだが、
それを敢えて「アニー」と「リング」に分けて別の意味にするという、凝ったネーミングになっていた。
ちなみに「量子アニーリング」とは、「膨大な選択肢からベストな選択肢を探索する」ことなのだそうだ。
『STEINS;GATE』の、“あらゆる可能性世界の中からベストなシュタインズ・ゲート世界線を選び出す”というストーリーに合致する。
私の他にも「量子アニーリング」のことだと推測した人がいたこともあり、この結論にはけっこう自信を持っている。

前述のとおり『鋼の鎧纏う、三百の大司祭』以来、6年ぶりの志倉さんによるファンタズムの詞。
もともと科学アドベンチャーシリーズ、そしてそこからリアルブートしたファンタズムを創ったのは志倉さんであり、
そこに強い想いを込めているのは間違いない。
だが今や彼が手掛ける仕事量は膨大になり、一つ一つにかけられる時間は以前より限られているはず。
そんな中で、今、生み出してくれたファンタズムの新作。岸本あやせの言葉。
彼の意中を知る術はないが、こうして現実に形にしてくれたことを感謝したい。
そして、彼の中に、彼が発端となって生まれた彼女が今も生きているのことを嬉しく思う。

詞の解釈は人によって違うだろうし、志倉さんはそうであることを望んでいる人だ。
私は私の解釈を述べさせてもらったが、これを読んでくれた人も自分の中にある独自の解釈を持ち続けてほしい。


今作は壮大なバラードだ。
イントロは情緒ある短調のピアノから始まり、サビで長調になる。
この点は『運命のファルファッラ』と同じ。
一方、大サビの後にAメロが入り、アウトロはエレクトリックな音色で終わる。
この点は『刻司ル十二ノ盟約』と共通している。
どちらも『STEINS;GATE』ED曲なので、作品テーマを基にした意図があるのだと思う。
『運命のファルファッラ』との共通点に対して、私の感想は「通常エンド曲がこんなに素敵でいいのか」だった。
この感動的な曲調は真エンドに使用していいくらいだと思うのだ。
一方、Aメロで始まりAメロで終わる事は、先の展開を予感させる真エンドへの伏線のように思える。
もしくは、ストーリー中の「同じ結果に収束する」ことを表しているようにも感じる。

今作が耳に馴染み始めた頃、なんとなく安心感というか既知感があった。
特にAメロのあたりだ。
これまで同じ作編曲者の音楽を聴き続けてきたのだから当然と思われるかもしれないが。
その感覚の要因は、イントロからBメロまでB minor、ロ短調だということだった。
『罪過に契約の血を』と同じなのだ。
他にもB minorの曲はあるが、試しにこの曲のAメロを歓喜極まると歌い出してみてほしい。
最初の1フレーズくらいは違和感ないはずだ。

私がこの曲を初めて聴いたのはCM用ムービーだった。
サビ4小節が使用されているが、それを聴いた時
「安定した4/4拍子でファンタズムとしてはシンプルだ」という印象だった。
少し気になったのは、4小節毎に三連符が入っている事。ちょっとした遊び心なのだろうと捉えていた。
ところがインストを聴いてみると、AメロからBメロにかけて、ピアノがずっと三連符を刻み続けている。
ああ、やられた、と思った。
厳密にはイントロから三連符が盛り込まれているのだが、変則的なので、それはそれだと別に考えていた。
Bメロでは半拍刻みでシンバルが入っているが、それと三連符の組み合わせはとてもおもしろい。
同時に聞くと複雑なリズムになるのだが、この組み合わせが世界線の絡み合う様に似ていると思えるのだ。

やられたついでにもう一つやられた話を。
サビ頭2小節の、4拍目の3音。1番の歌詞で言うと光が分かれの部分。
中央の音程が、光がではと下がり、分かれではシ♭と上がっている。
が、繰り返し部分の冒涜ではシ♭と上がり、い罪ではと下がっている。
1小節目、2小節目のメロディが逆転していた。
なんて細かい事をしてくれたのだ。
注意深く聴かないと気付かなかった。
ファンタズムから話が外れるが、林さんが立ち上げたバンドの『月夜のディアナ』という曲の終盤でも
上、下、上、上、のような把握しにくいメロディになっていることを思い出した。

大サビの裏切りで急に高音に移行するのも林さんらしい。
『鋼の鎧纏う、三百の大司祭』の大サビの善悪も知らずで急上昇するのを髣髴とさせる。
安定したクオリティの上にこういうトリッキーさが付加されているのが、私は大好きだ。

最後のAメロは、静けさの中にヴォーカルのハーモニーが響いて美しい。
最後の小節でスローテンポになりながら、頭2音を初めのAメロとは逆にして締めているのもまた綺麗だ。
一拍ごとに入るパーカッションが強調されているのは、さながら時を刻む秒針のように感じる。

今作の注目どころとして、ドラマーがいることも挙げたい。
ドラマーは下田武男さん。ライブ「漆黒のミサ」でファンタズムに関わるようになり、
CD音源への参加は『深淵のルミエラ』に次いで二度目。
長く続くものの中に同じ人がいてくれることを、ファンとして嬉しく思う。


『STEINS;GATE』は7年前にプレイしたきりで、その後関連メディアに触れてはいるものの、記憶にやや自信がない部分もある。
また『ELITE』では初代と異なる部分があるかもしれない。
もし誤りがあればご指摘頂けるとありがたいが、自分でも何か気付いた時もしくは新たな感想が生まれた時には、ここへ追記するつもりだ。

今回、“ファンタズム新曲発売”ということで、新鮮さを優先して書かせて頂いた。
このような希少な、今後あるかもわからない機会を得られ、有難く思っている。

2018.9.30